今回は、特許審査官のIPC(国際特許分類)ごとの統計情報の活用方法を説明します。IPCごとの統計情報は、個々の特許審査官が審査を行った特許出願に付与された指定IPCに基づいて集計した統計情報です。指定IPCは、特許出願に付与された代表的なIPCです。
当サイトでは、特許審査官の特許査定率等の統計情報をIPCごとに集計することによって、個々の特許審査官が、ある特定の技術分野の審査実績が豊富なのか、ある特定の技術分野についてだけ審査が厳しいのかを把握することができます。
下記の表は、ある特許審査官のIPCごとの統計情報です。この特許審査官は、H04(電気通信技術)の審査実績は十分にありますが、G06(計算または計数)の審査実績はあまりあません。この特許審査官は、総じて言えば審査実績が十分なベテランの審査官ではありますが、G06関連の特許出願の審査を担当した場合には、あまり慣れていない可能性があるので、注意が必要です。
下記の表は、上記特許審査官の乖離度です。乖離度は、ある所属部署の一員として特許審査官が審査を担当した時の個人の特許査定率から、その所属部署全体の特許査定率を引いた値です。乖離度は、個々の特許審査官が同じ所属部署の同僚に比べて厳しいのかを判断するための指標です。
所属コード5J00「審査第四部伝送システム・移動体通信システム」は、IPCのH04の審査を担当します。上記特許審査官は、所属コード5J00の乖離度のマイナスが大きく、非常に厳しい審査をする傾向にあります。即ち、上記特許審査官は、審査実績が十分にあり、慣れている技術分野については、審査が厳しい傾向にあります。
一方で、所属コード5L00「審査第四部電子商取引・業務システム」は、IPCのG06の審査を担当します。上記特許審査官は、所属コード5L00の乖離度のプラスが大きく、甘い審査をする傾向にあります。即ち、上記審査官は、審査実績が不十分であり、慣れていない技術分野については、審査が甘い傾向にあります。
以上の通り、同じ特許審査官だとしても、慣れている技術分野・慣れていない技術分野によって特許査定率が大きく異なります。上記特許審査官のように、慣れている技術分野の拒絶理由通知書や拒絶査定では、十分な審査実績があるので、それらしい指摘がなされている可能性がありますが、その技術分野の審査は非常に厳しいので、注意が必要です。上記特許審査官は、自身がなれている技術分野で過度に厳しい指摘をしている可能性があるので、下手に補正せずに審判段階の権利化を想定したり、面接審査をして事前に落としどころを把握したりすると良いでしょう。
一方で、上記特許審査官のように、慣れていない技術分野では、審査が甘いこともあるので、これはこれで注意が必要です。権利化の段階では、審査が甘いので強気に応答して広い内容の権利化を狙っても良いと思いますが、異議申立や無効審判を想定して従属項を追加したり、事後的に訂正しやすい表現に補正することを検討すると良いでしょう。場合によっては、分割出願を積極的に活用しても良いでしょう。
以上のように、IPCごとの統計情報によって、特許審査官の審査実績が多い/少ない技術分野が分かります。特許審査官が厳しい/甘い技術分野も分かりますので、これらの統計情報を考慮することによって、より精度の高い業務が可能になるでしょう。
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