今回は、特許審査官の乖離度の活用方法を説明します。
乖離度とは
乖離度は、特許審査官個人の特許査定率から、所属部署(=審査室・技術単位)全体の特許査定率を引いた値です。乖離度がプラスであることは、特許審査官が所属部署全体に比べて特許査定にしやすい傾向を意味します。乖離度がマイナスであることは、特許審査官が所属部署全体に比べて拒絶査定にしやすい傾向を意味します。乖離度は、当サイト独自の用語であり、一般的な用語ではございませんので、予めご了承下さい。
乖離度の分布
日本全体における乖離度の分布は、下記の通りです。下記分布は、2014年以降に発送された査定等を集計しています。査定等の合計数が50未満の特許審査官は、カウントしていません。同じ特許審査官が複数の所属部署から査定等を発送することがあるので、1人につき複数回カウントされていることもあります。
上記分布の通り、乖離度が0前後の特許審査官が多いので、同じ所属部署の他の特許審査官に比べて極端に厳しい/甘いわけではない特許審査官が多いようです。一方で、乖離度の絶対値が大きい特許審査官(所属部署全体に比べて厳しい/甘い特許審査官)も決して少ないわけではありません。
乖離度のマイナスが大きい特許審査官の対応
分布の左側の特許審査官は、乖離度のマイナスが大きい特許審査官です。同じ所属部署の他の特許審査官に比べて審査が厳しすぎる可能性があります。このような特許審査官が審査を担当した場合、当然のことながら拒絶査定になる確率が高いです。このため、権利化の目途をつけるには、例えば応答前に面接審査を実施する、いつもよりも補正量を多くする、意見書の主張をより詳細に記載する、独立項だけではなく従属項の反論も意見書に記載する、といった対応を検討する必要があるでしょう。
一方で、重要な案件であれば、1回目の査定で特許査定を目指さずに、審判請求を想定した対応をすることも考えられます。あまりにも厳しい方であれば、拒絶理由通知書に応答せずに審判請求をすることも視野に入れても良いでしょう。分割出願で特許審査官が代わることもあるので、分割出願を検討することも一案として考えられます。審判段階で権利化できなかった場合にそなえて、バックアップとしての分割出願をするのも良いでしょう。
乖離度のプラスが大きい特許審査官の対応
分布の右側の特許審査官は、乖離度のプラスが大きい特許審査官です。同じ所属部署の他の特許審査官に比べて審査が甘すぎる可能性があります。特許査定になりやすいことは、良いことではありますが、良いことばかりではありません。このような特許審査官が担当された場合には、権利化後に無効にされやすい可能性があります。このため、甘い特許審査官が担当して権利化の目途が立ちそうだったとしても安心せずに、例えば無効にされにくい従属項を拒絶応答時にいくつか仕込んでおく、別観点の分割出願を検討する等の対応を検討しても良いでしょう。逆に、無効にする側の立場としては、審査を担当した特許審査官の乖離度のプラスがあまりにも大きければ、無効資料を見つけやすい可能性があるので、心理的負担が軽くなるかもしれません。
おわりに
今回は、特許査定率の乖離度の活用方法を説明しました。特許査定率に限られず、他の統計情報(例えば、拒絶理由通知書における各条文の適用率)についても所属部署全体との乖離を考慮に入れると、特許審査官が周囲の同僚と比べてどの程度考え方に違いがあるのかを推定する手がかりになります。次回以降のブログでは、他の統計情報の活用方法を説明する予定ですのでお楽しみに!
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